法人投資家サロン

株式・不動産・暗号資産の法人投資家向けブログ

10. 暗号資産・仮想通貨の税務取扱事例

イントロダクション

この記事では、仮想通貨の注意すべき事例の税務上の取り扱いについてまとめています。うっかりミスしそうな判断と処理に迷いそうな事例を中心にご紹介しています。

 

個人が貸暗号資産(レンディング)サービスで利息を得る場合

仮想通貨のレンディングでは保有している仮想通貨を取引所等に貸し出すことで利息(取引所により貸借料もしくは利用料など呼び方が異なります。)をもらうことができます。

レンディングの契約期間が終了し、貸し出していた仮想通貨と合わせて利息(貸し出した仮想通貨と同種類の仮想通貨)を受け取った際に所得が発生します。

この場合、借り手から支払われる利息*が雑所得(総合課税)として課税対象になります。

なお、仮想通貨の貸し出し及びその返却には課税関係は発生しません。

*仮想通貨によってはステーキングという仕組みにより、所有していることで報酬という形で配当のような収入を得られるものもありますが、取り扱いは同じです。ステーキングではマイニングのように膨大な計算作業をする必要がなく、ウォレットに指定された数量の仮想通貨を預けているだけで報酬を獲得することができます。

また、その際に利息として受け取った仮想通貨の取得価額は、その仮想通貨の受取時点における価額(時価)とされます。

もしも取引所が閉鎖したなどの理由で、貸し出していた仮想通貨の一部または全部が回収ができなくなった(貸倒れ)場合、次の要件に該当するときは、雑所得の金額を限度として、損失分を経費(貸倒損失)にできる可能性があります。

・法律上の貸倒れ
・事実上の貸倒れ

 

個人が暗号資産を低額譲渡した場合

総収入金額に算入

個人が、時価よりも著しく低い価額の対価による譲渡*により暗号資産を他の個人又は法人に移転させた場合には、その対価の額とその譲渡の時におけるその暗号資産の価額との差額のうち実質的に贈与したと認められる金額**を雑所得等の総収入金額に算入する必要があります。
*「時価よりも著しく低い価額の対価による譲渡」とは、時価の70%相当額未満で売却する場合をいいます。
**「実質的に贈与したと認められる金額」は、時価の70%相当額からその対価の額を差し引いた金額として差し支えありません。

例示

4月9日に450,000 円で1BTC を購入した。
5月20 日に450,000 円で1BTC を売却した。
※売却時における交換レートは1BTC=1,000,000 円であった。

この場合には、次のとおり、低額譲渡に該当するため、総収入金額に算入される金
額は、700,000 円となります。

<判定>
〇 低額譲渡に該当するかどうかの判定
① 売却価額 :450,000 円
② 時価の70%相当額:1,000,000 円 × 70% =700,000 円
③ ①<②であることから、売却価額は、時価の70%相当額未満であり、低額譲渡に該当
します。

【計算式】
〇 総収入金額算入額
低額譲渡に該当する場合の総収入金額は、実際の売却価額に加えて、時価の70%相当
額との差額を総収入金額に算入することとなります。
450,000 円 + (700,000 円 - 450,000 円) = 700,000 円
[実際の売却価額] [時価の70%相当額との差額] [総収入金額算入額]
〇 所得金額の計算
700,000 円 - 450,000 円 = 250,000 円
[総収入金額] [譲渡原価] [所得金額]

 

個人が暗号資産を贈与した場合

総収入金額に算入(移転元)

個人が、贈与(死因贈与を除く。)により暗号資産を他の個人に移転させた場合には、その贈与の時における暗号資産の価額(時価)を雑所得等の総収入金額に算入する必要があります。

贈与税の課税対象(移転先)

個人が、贈与(死因贈与を除く。)により暗号資産を他の個人から取得した場合には、贈与税が課税されます。この場合の課税評価額ですが、活発な市場が存在する暗号資産は、受贈者である納税義務者が取引を行っている暗号資産交換業者が公表する課税時期における取引価格によって評価します。

取得価額
その贈与又は遺贈の時における価額(時価)がその暗号資産の取得価額とされます。

 

個人が暗号資産を相続した場合

相続税の課税対象(移転先)

被相続人から暗号資産を相続により取得した場合には、相続税が課税されます。

この場合の課税評価額ですが、活発な市場が存在する暗号資産は、相続人等の納税義務者が取引を行っている暗号資産交換業者が公表する課税時期における取引価格によって評価します。

なお、活発な市場が存在しない暗号資産の場合には、客観的な交換価値を示す一定の相場が成立していないため、その暗号資産の内容や性質、取引実態等を勘案し個別に評価することになります。
取得価額
暗号資産を相続により取得した場合、被相続人の死亡の時に、その被相続人が暗号資産について選択していた方法(総平均法又は移動平均法)により評価した金額(被相続人が死亡時に保有する暗号資産の評価額)がその暗号資産の取得価額とされます。

※移転元である被相続人側には課税関係は発生しません。

 

法人が暗号資産による給与等の支払を行った場合

例示

10月10日、従業員の9月分給与について、200,000円を現金で支払い、一部を当社が保
有する暗号資産(給与支給時の取引価格は50,000円)で支払った。

源泉徴収対象とする

従業員の給与の支給額は、現金200,000円と暗号資産の価額50,000円を合計した250,000円となりますので、250,000円を給与の支給額(月額)として源泉徴収税額を計算することになります。

なお、現金以外の現物給与については、その経済的利益を評価する必要がありますが、暗号資産の場合は、その支給時の価額で評価することになります。

 

暗号資産の取得価額や売却価額が分からない場合

国内の暗号資産交換業者を通じた暗号資産取引のケース

2018年(平成30年)1月1日以後の暗号資産取引については、暗号資産交換業者から、「年間取引報告書」が交付されていますので、こちらで確認します。手元に年間取引報告書がない場合は、暗号資産交換業者に年間取引報告書の(再)交付を依頼することができます。
※2017年(平成29年)以前は、年間取引報告書が交付されない場合があります。その場合は次の方法により、ご自身で暗号資産の取得価額や売却価額を確認します。

それ以外の暗号資産取引のケース(国外の暗号資産交換業者・個人間取引)

個々の暗号資産の取得価額や売却価額について、例えば次の方法で確認します。
・ 暗号資産を購入した際に利用した銀行口座の出金状況や、暗号資産を売却した際に利用した銀行口座の入金状況から、暗号資産の取得価額や売却価額を確認する。
・ 暗号資産取引の履歴及び暗号資産交換業者が公表する取引相場(注)を利用して、暗号資産の取得価額や売却価額を確認する。
(注) 個人間取引の場合は、自分が主として利用する暗号資産交換業者の取引相場を利用してください。※確定申告書を提出した後に、正しい金額が判明した場合には、確定申告の内容の訂正(修正申告又は更正の請求)を行ってください。 

なお、売却した暗号資産の取得価額については、売却価額の5%相当額(概算取得費)とすることが認められます。
例えば、ある暗号資産を500 万円で売却した場合において、その暗号資産の取得価額を売却価額の5%相当額である25 万円とすることが認められます。

イーサリアムなど他の仮想通貨の考え方も同様です。

 

法定調書関係

暗号資産を所有する場合、調書への記載の要否は次のようになっています。

財産債務調書への記載の要否(必要)

暗号資産などの財産的価値のある暗号資産を12月31日において保有している場合、財産債務調書への記載が必要になります。
暗号資産は、財産の区分のうち、「その他の財産」に該当しますので、財産債務調書には、暗号資産の種類別(ビットコイン等)、用途別及び所在別*に記載することになります。

*暗号資産の所在については、国外送金等調書規則第12条第3項第6号及び第15条第2項の規定により、その財産を有する方の住所(住所を有しない方にあっては、居所)の所在となります。

国外財産調書への記載の要否(不要)

暗号資産は、国外送金等調書規則の規定により、財産を有する方の住所(住所を有しない方にあっては、居所)の所在により「国外にある」かどうかを判定する財産に該当します。また、国外財産調書は、居住者(国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいい、非永住者の方を除きます。)が提出することとされています。
したがって、居住者が国外の暗号資産取引所に保有する暗号資産は、「国外にある財産」とはなりませんので、国外財産調書への記載の対象にはなりません。

 

参考:国外転出時課税制度(出国税)

平成27年度税制改正において、「国外転出をする場合の譲渡所得等の特例」(以下「国外転出時課税」といいます。)が創設されたことにより、平成27年7月1日以後に国外転出(国内に住所及び居所を有しないこととなることをいいます。)をする一定の居住者が1億円以上の有価証券等(以下「対象資産」といいます)を所有等している場合には、その対象資産の含み益に所得税(復興特別所得税を含みます)が課税されます。

国外転出時課税の対象者は、所得税の確定申告等の手続を行う必要があります。
申告期限及び納期限は、納税管理人の届出を国外転出までに行うか否かで大きく異なるので注意が必要です。

国外転出時課税の対象者

国外転出時において、⑴及び⑵のいずれにも該当する居住者が、国外転出時課税の対象者となります。
⑴ 所有等している対象資産の価額の合計が1億円以上であること。
⑵ 原則として国外転出をする日前10年以内において国内に5年を超えて住所又は居所を
有していること。

対象資産

・有価証券(株式、投資信託等)
・匿名組合契約の出資の持分
・未決済の信用取引・発行日取引・デリバティブ取引


暗号資産については、国外転出時課税の対象資産には含まれておりませんので、自由に国外転出させることができます。

 

 

■参考

パーソナル・ニュービジネスの運営と税務: ネット&ファンドビジネス編

パーソナル・ニュービジネスの運営と税務: ネット&ファンドビジネス編

 

 

■YouTube


www.youtube.com

 

■初心者向け

ひとり投資会社のつくり方

ひとり投資会社のつくり方

 

 

■実践者向け